メフィストフェレスの恋人たち《11》

♪OPイメージテーマ曲を聴く
「いいんですよ、気にしないで下さい。いつものことですから……」
「そうそう。ほっとけばちゃんと元に戻りますって……どうせまた、栗あんパンが手に入らなかったからあのオヤジとラブラブになれないかもーとかって落ち込んでんだろ?」
健吾が呆れたようにそう言い遣ると、何やら背後から殺気が漂ってきた。
「……ふーん……芦名先輩……誰がラブラブになれないんですか?」
「うわッ! な、何だよッ、沙樹っ! 脅かすなよッ!」
健吾の後ろには、どんよりと恨みつらみを含んだ爆発寸前の低気圧みたいになった沙樹が立っていたのだ。
「……どうせ……」
「うッ!」
いつものように機関銃の如く言いたいことをぶちまけるのかと思い、慌てて身構えた健吾と真琴の予想は思いっきり拍子抜けに終わった。
「あ、あれ?」
明らかにいつもとリアクションが違う。
「……どうせ……どうせ……僕なんか……ラブラブにはなれないんだ……分かってるよ」
「へ?」
何やらブツブツと悲観的な台詞を呪文のように繰り返している。
「……どうせ……僕なんか……」
そう言って長い睫毛を伏せた沙樹の双眸には、嘘のように美しい天使の涙が浮かんでいたのだ。
「うぇッ! う、うそぉ……お、鬼の目に涙……?」
「お、落ち着け、真琴ッ! 俺たちがあの涙に何度騙されてきたと思ってるんだッ!」
「あは、は……そ、そうだったよね」
出会った頃からずっと沙樹のあの涙には何度振り回されてきたことか。
特にひどい目に遭ってきた被害者の健吾がそう言うのも無理はない。
「ふん……可愛い後輩がこんなに苦しんでるのに……芦名先輩って……他人を信用できないなんて……ちょっと性格がねじ曲がってるんじゃないんですか?」
「な、何いぃ―――ッ!?」
さすがの健吾も、これには頭から湯気を出して怒り出した。
すると…―――
「ホッホッホッ……仕方ないのう。そんな仏頂面してたんじゃ美味しいもんもマズくなってしまうぞ」
「えっ?」
さっきからじっとちゃぶ台でお茶を啜っていたヨシエ婆さんが声を上げて笑った。
【To be continued】
メフィストフェレスの恋人たち《10》

♪OPイメージテーマ曲を聴く
「いやー、何だか悪いみたいっすよねぇ」
「あは…は……すみません……みんなでご馳走になっちゃって……」
真琴と健吾が頭を掻きながら照れくさそうに笑った。
「いやいや……ほら、焼きたてのジャムパンじゃよ。栗あんパンじゃなくて悪いが、折角ここまで来てくれたんじゃから食べてお行き」
そう言って、『仲村屋』の女社長であるヨシエ婆さんは、ミルクのたっぷり入った紅茶と竹製のパン籠に先程焼き上がったばかりのジャムパンを数個入れて持ってきてくれた。
「わあッ! 美味しそうッ!」
「それじゃ、遠慮なく……」
「いただきまーすっ!」
小踊りしそうな真琴と健吾は、そのまま勢い良くジャムパンに噛りついた。
「ほっほっほ……若いもんは食欲が旺盛で羨ましいのう」
あの店頭でのひと騒動の後、店内の事務所に通された沙樹たち三人は、隣の従業員用の休憩所になっている四畳半のこじんまりとした畳部屋に案内された。
家具などは何もなく、ただ部屋の中央に使い古された年代もののちゃぶ台が置かれているだけのガランとした部屋だが、何となく懐かしくて落ち着いた雰囲気だ。
どこか、昭和初期の香りのする部屋である。
そして、栗あんパンを買いにきたものの、売り切れてしまって悔しがっていた可哀相なこの三人の青年に、ヨシエ婆さんがジャムパンをご馳走してくれたのだった。
「おや? そっちのマリリン・モンローみたいなお兄ちゃんも、こっちにきて早くお食べ」
そのヨシエ婆さんの呼び掛けにも、当の沙樹はただ振り返って頭を左右に振っただけで今にも寝込んでしまいそうな顔色だった。
「おやおや、こりゃかなり重傷みたいだねぇ」
事務所の休憩所に通されてからも、沙樹はずっとあの調子で膝小僧を抱えたまま縁側に座り、魂が抜けたみたいにぼんやりと店の裏庭を見つめていた。
「いいんですよ、気にしないで下さい。いつものことですから……」
「そうそう。ほっとけばちゃんと元に戻りますって……どうせまた、栗あんパンが手に入らなかったからあのオヤジとラブラブになれないかもーとかって落ち込んでんだろ?」
【To be continued】
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■SHINOBI―忍―














