君の瞳を逮捕するっ《27》

♪OPイメージテーマ曲を聴く
「え?」
「あの……僕……友達と連絡取りたいんですけど……まだ荷物返して貰ってなくて……携帯もその中で……」
「ああ、そうか」
取調室で翼が突然倒れてからそのまま病院へ向かってしまったので、鑑識に保管してあった荷物のことまでは考えが回らなかった。
おそらく、その友人とやらも突然行方が分からなくなってしまった翼のことを心配しているだろう。
「そうだな。じゃ、取り敢えず心配しなくてもいいってことだけ……えっと、携帯番号とかは?」
「あ、はい。大丈夫です……覚えやすい番号だったから……」
「そうか。じゃ、これで連絡するといい」
そう言うと、早瀬は自分のシルバーの二つ折り携帯電話を開いて翼に手渡した。
「あ……すみません」
柔らかい笑みを浮かべて小さく頭を下げた翼は、ぎこちない手つきでその友人の携帯電話に電話を掛けたのだった。
やがて、若い男が携帯に出た。
『……はい、もしもし?』
たった今、携帯電話の着信で起こされたというような寝起きの声だ。
その上、思いっきり不機嫌そうな口調。
聞かないつもりでいても、この距離ではついつい聞こえてしまう。
この時間に目覚める生活週間を送っているということは、学生か夜勤会社員かフリーター、あるいは自由業や水商売関係だろうか。
「もしもし、孝太?」
やっとのことで連絡がついた翼の表情には安堵感が浮かび、会話をする声も心無しか弾んでいた。
「もしもし……孝太?」
『うおッ!? お、お前……つ、翼かッ!?』
「うん。ごめんね……寝てた?」
『お、お前なッ!? 探したんだぞッ……いきなりどこ行っちまったんだよッ!?』
「ごめんね。僕もよく分からないんだけど……でも、明日には帰れると思うから心配しないで」
目の前の携帯電話から洩れ聞こえてくる二人の会話。
その向こうには、早瀬がまだ知らない翼の今の生活がある。
心配しないで、と再び念を押して伝えると、翼は携帯電話の通話を切った。
「あの……すみません……有難うございました」
「何だよ、もういいのか?」
「はい、どうせ明日には帰れると思いますから」
「あ……」
どうやら、翼は明日には完全に普段の生活に戻れると思っているらしい。
例の暴力団員殺害事件の被疑者や麻薬密売組織から命を狙われる危険があることを話しておいたほうがいいだろうか。
しかし、それは悪戯に恐怖感を煽ることになってしまう。
どのみち、もう少し様子を見るしかないようだ。
「そ、そういえば……さっきの『孝太くん』だっけ? 仲いいんだね、学校の友達?」
そう尋ねると、翼の顔色がさっと曇った。
「いえ………僕……学校に友達は……居ないですから」
「え?」
「養父の……あの人の教育方針で……ずっと家庭教師をつけられていたので……中1の2学期からは……学校に行ってないんです」
僅かに睫毛を伏せた翼が、忌まわしい過去の記憶を静かに語りはしめた。
「小学校や中学校で仲良かった友達には……僕と付き合うのを止めるように、って………僕の知らない間に……あの人が……」
「あの野郎……ッ!」
「それから……あの人の許可なしには自由に外出もできなくなって……」
「お、おいッ……それじゃまるで監禁じゃないか!?」
行動を監視して制限し、学校にも通わせずに友達との関わりも排除させた生活。
まるで、籠の中の小鳥だ。
あの霧原という男は本当に何を考えているのだろうか。
「……今年になって……僕をアメリカに留学させるって話が出て……」
「アメリカに?」
「はい………だから…僕……無我夢中で……逃げたくて……家を出たんです」
【To be continued】
君の瞳を逮捕するっ《26》

♪OPイメージテーマ曲を聴く
「そっかぁ、オフクロの味ってやつ?」
玲司が羨ましそうにそう呟いた。
「す、すみません……無理なことお願いしちゃって……」
「何言ってんだよ、そんなことないさ。そういう素敵な思い出があるなら大切にしないとな」
閉じられたメニューを受け取りながら、玲司が片目を瞑ってニッコリと笑った。
「うん、たまにはいいかもな。じゃ、俺もオムライスを頼む」
昔ながらの懐かしさを思い出したように、早瀬も翼と同じメニューを注文した。
「ほぉー。へっへっへー、天下の警視庁ソウイチの星が『オムライス』ですかぁ?」
「う、うるせぇよ、早く作ってこいっつーのっ!」
「よーしっ。んじゃ、今夜はこの玲司様がとびきりの腕を振るっちまうか」
「うん、そうだね。じゃあ僕達も今夜は一緒にオムライスにしようよ」
「おっ、いいねぇっ! んじゃ、今夜は『はじめまして翼くん☆オムライス・パーティー』ってことにするからな」
「はいはい、了解」
「よっしゃーッ! オームライスっオムライスぅ、たまねぎピーマンどこかいなっ」
そう言いながら腕まくりをすると、鼻歌混じりの玲司の後ろをクスクスと小さく笑った瞬がついていくように、カウンターの奥の厨房へと消えていった。
「やれやれ……」
後に残された早瀬と翼のふたりには、やっと穏やかな静寂が訪れた。
「ご、ごめんな、翼くん……何だか騒々しい店で……」
早瀬はスーツの内ポケットから煙草を取り出すと口に咥えて火を点けた。
「え? どうしてですか? そんなことありませんよ」
「へ?」
「あ、あの……とっても素敵なお店だと思います……僕。あ……玲司さんも瞬さんも……何だかとっても……温かいなぁ…って」
どうやら翼がこの『三匹の子猫』を気に入ってくれたようなので、早瀬はホッと胸を撫で下ろした。
もっと改まった店のほうがいいかとも考えたが、こじんまりとしていて家庭的に和気靄々とした雰囲気のほうがいいだろうとこの店を選んだのだ。
「そうか。気に入ってくれてよかった」
「あ……はいっ……有難うございます」
屈託のないとびきりの笑顔…――。
まだあどけなさの残る柔らかそうな頬を薔薇色に染めて、にっこりと微笑んだ翼が何だかとても眩しくて、早瀬は高鳴っていく鼓動を静めるように慌ててレモン入りのお冷やで喉を潤した。
鎮まれ鎮まれ、と何度も心の中で呪文のように呟いてみても、更に胸の高鳴りは激しくなっていくだけだった。
レモンは初恋の味、なんて死語までもがふと脳裏に浮かぶ。
これじゃ、まるで中坊の純情初デートのようである。
「……あの…早瀬さん?」
「えっ!?」
いきなり翼に顔を覗き込まれて、早瀬は思わず咥えていた煙草を落としそうになってしまった。
「あ…あの……やっぱり……僕なんかが急にお邪魔したら…その……ご迷惑なんじゃ……?」
「え?」
何か言いたいことがあるように口籠った翼の顔を、早瀬がきょとんとしながら見つめた。
「あ…あの……で、ですから……ご家族とか………奥さん…とか……」
「ああ、何だ。そういうことか」
「え?」
翼が何を心配しているのかがハッキリしたので、思わず早瀬の顔には笑みが零れる。
「それなら心配はいらないさ……ほら」
そう言いながら、早瀬は翼の前に左手の甲をかざして見せた。
大きくて骨ばった男らしい手。
その手の薬指に結婚指輪はなかった。
「あ……」
「そ、その……俺は…独身でひとり暮しだからさ。何にも気兼ねすることはない…って訳さ」
「ご、ごめんなさい……僕……失礼なこと聞いちゃって……っ」
慌てて謝った翼の顔は、林檎よりも真っ赤になってしまっていた。
「あ……いいんだよ、別に……あはは、は……」
照れたように早瀬が笑うと、向かい合って座っているふたりの間には再びじれったいくらいの静寂が訪れた。
何だかまるでお見合いのようだ。
「あ、あの……」
しばらくすると、翼が思い切ったように口を開いた。
「え?」
「あの……僕……友達と連絡取りたいんですけど……まだ荷物返して貰ってなくて……携帯もその中で……」
「ああ、そうか」
【To be continued】
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■SHINOBI―忍―














