放課後の恋人―First Edition―《3》

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驚いた顔をしている夏樹の口唇を人差し指でなぞりながら澤村が小さく笑った。
「可愛い顔して以外と大胆なんだな」
「ち、違…ッ、こんなことするの…先生が初めてで……」
夏樹は真っ赤になって頭を振った。何かとんでもない誤解をされているようだ。
「嘘つくなよ。今まで何人位とヤッたんだ? この厭らしい身体で」
ふっと目を細めた澤村は、いきなり夏樹の制服のシャツを乱暴に剥ぎ取った。
「あ……ッ!」
プックリと膨れて堅く勃ち上がった薔薇色の胸の突起が露わになり、ひんやりとした指先が這う。反応を楽しむかのように指で捏ね弄りながら、澤村が耳殻に熱く囁いた。
「……どんなに厭らしい身体か、俺が調べてやるからな」
そう言い遣ると、乱暴に夏樹の制服のベルトを外しはじめた。
「あ…っ、せ、先…ッ、やめ……ッ!」
このままではいけない、と鳴り響く警鐘に夏樹は慌てて抵抗した。
圧し掛かってくる澤村の身体を、細い腕で懸命に押し返そうとしたが反対に難なく組み敷かれてしまう。腕力で押さえ込まれ、次第に露わになっていく華奢な肢体。首筋を這うぬめった口唇の感触、布擦れの音。
「や、めてッ……あ……ッあぁ――――!」
「止める? ――――……冗談だろ?」
澤村が喉奥で揶揄するように小さく笑った。
「……お前は…今から……俺のものだ」
――――どの位経ったのだろうか。
凄く、熱い……。
身体が鉛のように重くて、腕も、脚も動かせない。
何も考えられずに真っ白な思考のままでぐったりと弛緩した身体を震わせる。自分に何が起こったのかを、徐々に記憶を司る脳が組み立てはじめていった。
駅で助けられて、それから……。
『……お前の秘密は全部……俺が握ってるんだ。そのことを……忘れるなよ』
情事の中で幾度も囁かれた澤村の台詞。
そして、眩しいフラッシュの閃光。気がつくと、淫らに開かれて繋がった身体を写真に納められていた。幾枚も、幾枚も───。
ゆっくりと起き上がって、乱れたシーツを見つめた。これは現実なのだろうか。まだ長い夢を見ているようだった。
そのまま、ふらつく身体でよろよろとバスルームのドアを開けた。
熱いシャワーに打たれながら、夏樹は麻痺した思考を呼び戻そうとしていた。
乳白色で統一されたバスルームで震える息を吐きながら、身体に残された澤村の痕跡を消そうとしてみる。
はじめて他人に触れられて弄ばれ、自分でも触れたことのないようなところに入っていた異物の感触はしばらく消えそうになかった。
「……どうしよう」
夏樹は震える肩をギュッと抱き締めた。
先生とあんなことしちゃうなんて―――。
しかも、あんなに淫らな声を上げながら何度も達してしまった感触が、まだ身体の奥にゆらゆらと燻っている。
何もかも忘れようと、心の中で囁いて顔を上げた夏樹は、鏡の中の自分の身体にハッと瞳を見開いた。
「な…ッ!? 何…これ……ッ!?」
夏樹の白い肌に浮かび上がっている薄い鬱血の跡。滑らかな首筋や胸にも、澤村が残した刻印が刻まれている。
「………ッ」
いくら忘れようとしても、強い力で組み敷かれて激しく凌辱された非現実的な事実は変わらない。
真っ赤になった夏樹は、身震いしながら両手で華奢な身体を抱き締めたまま、いつまでも熱いシャワーに打たれていた。
◇◇◇
────翌日。
昨夜の出来事が嘘のように、教室ではいつもの通りの授業が進んでいた。
4時限目の授業。夏樹は教科書を開いたまま、顔を上げることができずにじっと俯いていた。
なぜなら、教壇に立っているのが、澤村だったから────。
「……今日は、期末も近いから模擬テストやるぞ」
「えぇ──っ!? マジぃ!?」
「うっそ──!」
教室中の生徒達から様々な奇声が上がったが、テスト用紙が配られると自然と静かになっていった。
夏樹も配られたテスト用紙に集中しようとするが、教壇からこっちをじっと見つめている澤村の視線を感じて思わず顔が熱くなる。
今ここに居るのは、いつもと変わらない“教師”の顔をした澤村だった。
昨夜、夏樹がまどろみから目を覚ますと、ベッドサイドに置かれた3万円とメモを残して澤村の姿は消えていた。
『明日学校で──』と書かれたメモが、夏樹にあの行為が現実だったことを改めて実感させる。罪悪感と羞恥心から、どんな顔をして澤村の顔を見ればいいのかさえも分からなかった。
静まり返った教室には、生徒たちがただシャーペンを走らせる音だけが響いている。今は授業中なんだ、と自分に何度も何度も言い聞かせている筈なのに。それなのに────。
澤村の冷徹な眼差しの中に、昨夜の淫らな行為を思い出して無意識に身体が震えてしまうのだった。
しなやかな指の動きや熱い舌の感触。重なった肌と肌のぬくもりや無理矢理繋がったときの甘い苦痛も身体が鮮明に覚えている。
授業中だというのに──身体が、熱い。
「……っ」
高鳴った鼓動が教壇に居る澤村に聞こえてしまいそうで、夏樹は戸惑いながら慌ててギュッと瞳を閉じた。
「なーつーき」
いきなり名前を呼ばれてハッと我に返る。
「あ……」
夏樹の前の席に座るクラスメートの倉田櫂(くらた・かい)が、いつもの人懐っこい笑顔でこちらを向いていた。
「ど─したの? ボーッとしちゃって。チャイムなったよ?」
「あ……う、うん」
後ろの席からテスト用紙が集められ、殆ど白紙に近い夏樹の答案用紙も一緒に集められた。
「夏樹、今日は元気ないみたいだけど……大丈夫?」
「あ……はは、ごめん。な、何でもないよ」
「そっか」
やがて澤村が教室を出たのを確認すると、倉田はうーんと思いっきり伸びをして読み掛けの文庫本を机の上で開いた。
「ったくー、急にテストなんて澤村も意地悪だよねー」
お陰で赤点スレスレになっちゃったよぉ、と肩を竦ませて頭を掻いた。
「あーぁ、テストだって分かってんならさー、昨夜ちゃんと勉強してきたのに。ねー、夏樹」
「え…っ!? あ、うん……」
昨夜、と聞いて思わずドキンと鼓動が高鳴ってしまった。
これほどまでに動揺しているこの気持ちを自分でも押さえきれそうにない。
「なっちゃーん、テスト出来たぁ?」
「あーぁ、イケてねぇ。みんなで追試受けようや」
やがて、他のクラスメートたちも次々に集まりはじめ、いつのまにか夏樹の周りも賑やかになっていた。
「なっちーや倉ちゃんはさー、数学得意なほうだからまだいいじゃん」
「そぉそぉ、うちらなんて撃沈だよ」
「そ、そんなことないよ。たまたま勉強したとこがテストに出たりするだけで……」
「それだよッ! それ! どこがテストに出るかを予想できるなんて立派な才能だぞ、杉原」
「そ、そうかな……」
しかし、今回のテストは昨夜の出来事や教壇から見つめられていた澤村のあの眼差しが気になって、全然集中出来なかったのだった。多分追試は免れないだろう。
「でも、得意な科目の割りにはあんまり回答してなかったみたいだな、夏樹」
「え?」
いきなり後ろから聞き覚えのある声に茶化されて慌てて振り返ると、親友の相川涼(あいかわ・りょう)がにっこりと微笑んで立っていた。
「り、涼ちゃん」
「どっか具合でも悪かったのか? テスト用紙見つめてボーッとしてただろ?」
じっと顔を覗き込まれて思わず赤くなる。
「や、やだな……見てたの?」
「様子が変だったから、何となく気になってさ」
【To be continued】
放課後の恋人―First Edition―《2》

♪OPイメージテーマ曲を聴く
でも、実際には未遂で終わってしまった訳だし、何の証拠もないのだから、まさかそんなことをしようとしていたなんて誰も疑ったりしないんじゃないだろうか。
そう自分に言い聞かせた夏樹だったが、澤村の口からは思いもよらない言葉が飛び出した。
「お前、あのオヤジとホテルに行く筈じゃなかったのか?」
「え…っ!」
まるですべてを見透かしたようなその澤村の眼差しに、夏樹は頬を林檎のように真っ赤に染めて頭を左右に振った。
「ち、違います…ッ!」
「誤魔化しても駄目だぞ……ずっと見てたんだ」
「え…っ!?」
澤村はスーツの内ポケットから煙草を取り出すと、強ばった夏樹の顔をじっと見据えながら形のいい眉を顰めた。
本当に今までの状況をすべて見られていたとしたら、完全に言い訳の仕様がない。
夏樹はどうしたらいいのか分からずにそのまま立ち尽くしてしまった。
「……こんなことが学校に知れたら大変だろうなぁ」
そう呟くと、澤村は紫煙をくゆらせながら涼しい顔でにやりと笑った。
「あ、あの……先生…ッ」
夏樹はどうしたらいいのか分からなくなって、不安そうな瞳のまま助けを求め縋るように澤村を見上げた。
緊張のあまりに、ごくりと喉が鳴る。
「あ、あの……」
すると、悪戯っぽく双眸を細めた澤村が夏樹の耳元にそっと囁いてきた。
「……黙っててやってもいいぞ、杉原」
「えっ!?」
「但し、俺の言うことを聞くなら……な」
「え? 言うこと、って……」
それは、澤村から出された交換条件だった。
しかし、言う通りに従えば本当に黙っていて貰えるんだろうか。
でも、このことを学校関係者に知られてしまったら大変な問題になってしまうだろうし、ここは何とかしなくちゃならない。
「わ、分かりました。じ、じゃあ……先生の言う通りにすれば、ぜんぶ秘密にしてくれるんですか?」
澤村は冷徹な双眸を細めてニヤリと微笑んだ。
「……ああ、このことは誰にも言わないさ」
その言葉を聞いて安堵した夏樹は、ホッと胸を撫で下ろして強ばった身体の力を抜いた。
「あ、あの、先生……僕にできることなら、何でもするから……」
ワラにも縋るって、こういうことを言うのだろうか。
「……じゃ、早速やって貰おうか」
そう言って小さく笑うと、澤村は夏樹の腕を掴んで足早に歩きはじめた。
「え…っ!? あ、あのぉ……先生……どこ行くの…っ?」
まるで引き摺られるように歩きながら不安そうに尋ねる。
「……何でもする、って言ったよな」
夏樹の耳元で澤村が悪戯っぽく笑った。
「俺が援助してやるよ」
「え!?」
驚いた夏樹は思わず澤村の顔を見上げてしまった。
仮にも澤村は教師だ。
間違ってもその聖職者の口からサラリと出てくるような言葉ではなかった。
からかうための冗談なのだろうか。
「あは、は……せ、先生……な、何言ってるんですか……そんな冗談は止めて下さ……」
笑いながら夏樹が肩を竦めると、いきなり真摯な眼差しの澤村にグイッと身体を引き寄せられた。
「あ…ッ」
「……いくら欲しいんだ?」
「え…っ!?」
夏樹は驚きのあまり呆然と立ち尽くしてしまった。
もちろん、現役教師としては信じられない言葉だが、多分これが夏樹にとっては最後のチャンスかもしれない。
奪われた腕時計を取り戻す為に、夏樹にはどうしても明日までに3万円が必要なのだ。
その為に、さっきの出会い系サイトの中年男性との援助交際まで決意したことを思い出す。
「……そんなわざとらしく驚いた顔をする必要もないだろ?」
「え……っ!?」
「あの時、俺が止めに入らなかったら……お前はどうした?」
「そ、それは……」
「逃げたか? それとも……あのままホテルにでも行ってあのオヤジとヤってたか……?」
夏樹は咄嗟に答えられなかった。
あの時は確かに逃げ出そうとしていたけれど、3万円を手に入れる唯一の手段だとしたら、やっぱりあのままついて行ってしまったかもしれない。
「まあいいさ。あのオヤジの代わりに俺が援助してやるよ。お前にとっては相手が入れ替わっただけのことだろ?」
その通りだった。
こういう展開になってしまった今は、澤村の言う通り相手が入れ代わっただけのことなのかもしれない。
それに、このまま澤村の言う通りに従えば、多分希望の金額は確実に手に入れることができるのだろう。
でも、教師と生徒の援助交際なんて―――。
かなり危険な秘密を所有することになるのは間違いない。
どうすれば………どうしよう───。
「どうした? こういう場合は、はじめに金額の交渉をするんじゃないのか?」
「あ……あの……」
でも、もう悩んでいる余裕も残されてはいなかった。
潤んだ大きな瞳で澤村の悪戯っぽい眼差しを見上げると、意を決したように震える声で口唇を開いた。
「……さ、3万…円…で……いいですか?」
顔から火が出そうなほど真っ赤になって俯きながら口唇を噛んだ。緊張し過ぎて心臓の鼓動が煩いくらい高鳴っている。
そんな夏樹の肩に腕を回すと、澤村はにやりと双眸を細めた。
「……交渉成立だな。じゃ、行こうか?」
◇◇◇
ラブホテルなんかに入ったのはもちろん初めてだった。
ワンルーム程度の部屋に入ってすぐ、中央にあるダブルベッドを見て夏樹は羞恥に顔を赤らめた。
「あ、あの……」
いくら3万円の為とは言え、自分の軽率な行動に思いっきりの後悔。
しかし、そんな夏樹には構わず澤村がドアのキーを後ろ手に閉めた。ガチャッという金属音にビクッと身体を竦ませて振り返る。
「せ、先生……や、やっぱり…僕…っ」
俯いて立ち尽くしたまま、真っ赤になって震えている制服姿の夏樹を見つめると、澤村はフッと小さく笑った。
「……そんな顔して、誘ってるつもりか?」
「ち、違いますっ! こんなこと…しちゃ…」
いけないに決まってる。まして、相手が自分の学校の教師だなんて。
「黙ってて貰う為なら何でもする、って言ったのはお前だろ。それに3万円分の奉仕もして貰わなくちゃ、な」
そう言うと、澤村はスーツの上着を脱いで脇のソファーに無造作に投げ掛けた。
「やっ、やっぱり、僕…帰…り──あっ!?」
グイッと力強く腕を掴んで引き寄せられ、夏樹は固まったまま動けなくなってしまった。
「あッ…っ! だ、駄目…っ、せ、先生ッ!?」
背後から覆い被さるように抱き締められて、緊張していた夏樹はギュッと固く瞳を瞑ってしまった。
エゴイストの香り───。
澤村の大人の香りが鼻を擽る。
「おい、どうした?震えてるぞ……」
耳元に囁かれて、ビクッと身体が跳ね上がった。
「……ッ」
心臓の鼓動が驚くほど速くて、顔から火が出そうなくらい熱い。
「あ、あの…先生、離して下さ……お願……――――ッ!?」
いきなり澤村の骨太の指に顎を掴まれ、夏樹は言い掛けていた言葉を乱暴なキスに塞がれてしまった。
「ん…や……ッ」
無理矢理抱き竦められて口唇を奪われ、夏樹は抵抗しようと抗ったが強い力に押さえ込まれてビクともしない。脱がされてしまった制服のブレザーがバサッと音を立てて床に落ちた。
「……ん」
微かな煙草の香りと密着した身体から伝わるはじめての鼓動。
やがて、乱暴だと思っていたその口づけも、徐々に優しいものへと変わっていった。
「あ……」
生まれてはじめての口づけに翻弄されて、夏樹は次第に頭の芯が緩慢になり身体から力が抜けていくのを感じていた。
乱暴だけど、それでいてとても優しい大人のキス。このまま時間が止まってもいい、と思ってしまうくらいの優しい口づけだった。
どの位経ったのだろうか。
やがて、ふたりの微かな吐息を残して重なっていた口唇が離れた。
「どうした? 怖いのか?」
澤村がにやりと笑って覗き込んでくる。
「……あ」
知らずに涙がぽろぽろと溢れていたのだ。
頬を真っ赤に染めた夏樹は、その可愛らしい大きな瞳で目の前の澤村をキッと睨みつけた。
「……フフ、そんなに恐い顔するなよ。お前が約束を守るんなら、俺も約束は守るって言ってるんだ」
この人は本当に教師なんだろうか。
今ここにこうしていること自体信じられない話だけど。
「あ…あの……」
「キッチリ3万円分楽しませてくれるんだろ?」
澤村は夏樹のシャツのボタンを片手で器用に外しながら、はだけた白い素肌にするりと指を滑らせた。
「ちょ…ちょっ…と、先生ッ……や…ッ!」
そのまま後ろのベッドに押し倒され、ふたり分の身体の重みでスプリングが大きく軋む。
「せ、先生…ッ」
澤村の端整な顔立ちがすぐ傍にある。
夏樹は頬を薔薇色に染めると、不安そうな瞳で澤村を見上げた。
「……可愛いな…お前」
澤村は、夏樹の華奢な身体をベッドに押さえつけたままで冷たく微笑んだ。
「いつもあんな風にセックスの相手を漁ってるのか?」
「え!?」
【To be continued】
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