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歴史/学園ファンタジー/ボーイズラブ小説『SHINOBI―忍―』 ■SHINOBI―忍―

時は現代―――。
武田信玄公のもとで活躍した忍びの末裔・疾風と銀牙は、何者かが狙っている『風林火山宝玉書』と、信玄公の御側室・春乃姫の末裔・香田翔という高校生を守るために東京へと向かった!? 歴史/学園バトルファンタジーBL!?
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SHINOBI ―忍― 《4》


SHINOBI
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 1

 東京、渋谷…―――。
 若者の街として賑わっている繁華街からは、だいぶ離れた郊外の閑静な住宅街。
 その中に、ひときわ目立つ可愛らしい赤い屋根の一戸建住宅があった。
 ブロック塀に囲まれた小さな庭とガレージがついている、どこにでもあるごく普通の二階建ての家である。
 玄関の表札は『香田』。
 周りには児童公園や野球グランドがあり、買い物に欠かせない商店街や最寄りの駅までは徒歩十分という便利な環境の中にあった。
 リビングの時計は午前6時を廻ろうとしている。
 新聞配達や牛乳配達の自転車の走る音が通りから聞こえてきた。
 眠っていた街や人々が、目を覚まして活動をはじめる時間だ。
 そして、この大都会の片隅にも、爽やかな朝の光景が顔を覗かせていた…――。

 トントントン……。

 規則正しい包丁の音が、静まり返ったダイニングキッチンに響く。
 火にかけた鍋から上がる真っ白い湯気。
 美味しそうな味噌汁の薫りが仄かに漂ってきた。
 こんなに朝早くから朝食の準備をしているのは、エプロン姿の小柄で可愛らしい男の子だった。
 制服の白いシャツに濃茶色のネクタイが、日焼けしていない滑らかな色白の肌によく似合っている。
 大きめの琥珀色の瞳と、毛先の跳ねた柔らかそうな茶褐色の髪。
 見るからにホンワリ系の『癒しキャラ』といった感じだろうか。
 この男の子が、今年十七歳になったばかりの香田翔(こうだ・しょう)である。
「よーしっ、出来た……っと」
 鼻歌混じりでお弁当箱に卵焼きとベーコンのチーズ巻き焼きを詰めた翔は、ずっと足元に座ってクンクンと鼻を鳴らしている中型犬のシェルティを見下ろした。
「こら、だめだよ。秀吉」
「クゥーン」
 そう言われて秀吉と呼ばれたシェルティ犬は、翔の顔を見つめながら名残惜しそうに鼻を鳴らすと、そのまま床に伏して大人しくなった。
「今朝は秀吉と遊んでる訳にはいかないんだよ。加菜ちゃんと一緒に譲の剣道部の朝練を応援にいく予定なんだ、ごめんね」
「クゥ―ン」
「じゃあ、いい子にしてたら、学校から帰ってきてから僕が散歩に連れてってあげるから」
 そう言いながら翔が秀吉の頭を撫でてやると、嬉しそうに尻尾を振りながらワンワンと小さく吠えた。
「あはは……分かったってば、秀吉」
「ワンワンッ!」
 すると、二階からこの家の主が大きな欠伸をしながら降りてきた。
「ふあぁ……おはよーさん」
 人懐っこい茶褐色の瞳と銀縁眼鏡。
 長めの髪を後ろで結わえてひとまとめにしている三十代後半の男だ。
 この起き抜けのパジャマ姿の男が翔の父親、香田惣一郎(こうだ・そういちろう)である。
「あ、おはよっ。惣パパ」
「何だ? 翔、今日は随分と早いんだな?」
「うん、加菜ちゃんと一緒に剣道部の応援にいく約束なんだ。譲がもうすぐ都大会だからね」
「へぇー、譲の奴凄いなぁ」
 小学生の頃は手のつけられない悪戯っ子だったのになぁ、と言いながらお弁当箱の中に詰めてあるタコ型ウインナーをヒョイとつまみ食いした。
「うーん、美味い」
 その声を聞いて、床に伏していた秀吉が惣一郎の顔を見上げて再びクゥーンと鼻を鳴らした。
「おっ。何だよ、秀。お前も欲しいのか?」
「クゥーン」
 後で犬用ジャーキーをあげるからな、と秀吉の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「あれ?」
「ん?」
「惣パパ、目が赤いよ?」
「そ、そうか?」
「うん、寝不足かな? とにかく、まだ早いからもう少し寝ててよね」
「だ、大丈夫だって、きっと疲れ目だろ?」
「そんなこと言って……どうせ、また昨夜遅くまで打ち合せしてたんでしょ?」
「あは、は……いや、つい話が弾んちゃってさぁ……」
 香田惣一郎は、現在注目されている若手時代小説家である。
 代表作は『唐笠の流浪人』『蝉時雨』『八重桜の墓』などで、テレビ放送された『辻斬り桔梗』はかなりヒットしたらしく、次回作のオファーが編集部にきているらしい。
 いつも担当編集者との打ち合せは昼間するのが普通なのだが、昨夜は訪ねてきた編集者が大学時代の同窓生ということで、ついつい深酒になってしまった。
「本当に身体には気をつけてよね。それに、原稿の締め切りも近いんでしょ?」
「あ、ああ……そうだよな。悪い悪い」


【To be continued】

SHINOBI ―忍― 《3》


SHINOBI
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「俺が嬉しくてピーピー泣きはじめちゃったら、銀牙もつられて泣きだしちゃってさぁ……あの頃は銀牙もそりゃー素直でとーっても可愛かったのになぁ……」
「……おい、その位にしとけよ。疾風」
「へ?」
 徐々に刻まれていく銀牙の眉間の皺に気づいた疾風が、慌てて口をつぐみながら頭を掻いた。
「あはは……そ、そうか? 何だよ、やだな。じ、冗談だって冗談っ!」
「……ふんっ」
 不機嫌そうに赤くなった銀牙によって、疾風の思い出話にはそのまま終止符が打たれたのだった。
「……で、翁。『風林火山宝玉書』を狙ってるのが何者なのか、正体は判ってるのか?」
「うーむ、それがのう……」
 銀牙のその問いに、藤十郎がいつになく言葉を濁した。
「あらかじめ東京に送り込んでおいた者たちの情報からも、未だはっきりとしたことは判っておらんのじゃよ」
「そうか……」
「ちえっ、何だよそれ。頼りになんねぇな」
 疾風が、呆れたようにやれやれと肩を竦めた。
「まぁ、そう言うな。とにかく、何者かが春乃姫様に纏わる事柄や子孫の行方を探っているようなのじゃよ。それだけなら未だしも、古美術商や骨董業界の裏と表にも探りを入れているらしいのじゃ」
「それって……?」
「うむ、狙いはおそらく『風林火山宝玉書』じゃろ」
 藤十郎は白髪の顎髭を撫でながら、鋭い眼差しをより細めた。
 しかし、東京に送り込まれている者たちは一族の中でも若手の精鋭揃いの筈だ。
 それが、相手の素性もまったく探れないということは、何かとてつもない“存在”ではないだろうか。
「取り敢えずは、すぐに情勢が動くということではないじゃろうが、儂にはどうも嫌な気配がしてならんのじゃよ。じゃから、こちらも動くことに決めたのじゃ」
「おいおい、じいちゃん。決めたのじゃ……って言われてもなぁ。それで、俺たちは東京のどこへ行って誰を護衛すればいいわけ?」
 いきなり東京へ行って身辺警護をしろ、と言われても何が何だかさっぱり話が見えてこない。
「そのことじゃがな、細かいことはみんなあっちの部隊に任せてある」
「へ? 任せて……ある?」
「うむ。お前たちにはのう、東京の学校へ通って貰うのじゃよっ!」
「はぁぁッ!?」
「が、学校ッ!?」
 疾風と銀牙は、呆気にとられて思わず驚きの声を上げてしまった。
「こんな僻地の分校じゃ十分な授業も受けられないようじゃからな……いい機会じゃ、しっかり勉強もしてくるんじゃぞっ!」
「な、何だよそれ……じ、冗談じゃねぇぞっ!」
「はっはっはっ……女子高生にコンビニやケータイ。羨ましいのう、儂が代わってやりたいくらいじゃ」
 藤十郎が、まるで揶揄するように皴枯れた笑い声を上げた。
 身辺警護のついでに、ふたりの成績のほうも向上させようという狙いらしい。
 まったく、本当に食えない老人だ。

「な、何だよそりゃッ! 全然訳わかんねーじゃんかッ!」

 その時、疾風の感嘆の悲鳴が緑の深い秘境の郷に響き渡ったのは言うまでもない…―――。

【SHINOBI ―忍― プロローグ・終わり】

【To be continued】

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