緋の覇王:第1章『戦焔の序章』《9》

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1、運命〜プロローグ〜
9
「多分、俺はエレーナのことを……好きというよりは……愛しているんだと思う」
真摯にエレーナを大切に思うシドの気持ちが、兄としてエレーナを大切に思うランスの心に共鳴した。
いきなり起き上がると、ランスはシドの胸座を掴んだ。
「それじゃ、何でそこまで気持ちが固まっているのに、エレーナに想いを打ち明けてやろうとしないんだッ!?」
「お、おい…ッ!?」
突然乱暴に掴み掛かられて戸惑うシドに構わず、ランスの拳にぐっと力が籠もる。
「お前は……何で……エレーナの気持ちに答えてやろうとしないんだッ!?」
「そ、それは……」
慌てて口籠ったシドは、ランスの真っすぐな眼差しを避けるように瞳を逸らすしかなかった。
気がつけば、アモルワの湖から吹き込んでくる優しい風が、静かにこの若者たちの髪を乱すように揺らしている。
やがて、二人の間の張り詰めた沈黙も終わりを告げた…――。
「俺は……」
ランスの蒼い双眸が、哀しげに揺れながら目の前のシドを見つめた。
「俺は……お前のことが好きだ、シド」
「ランス……」
静かにゆっくりと、そしてひと言ひと言を噛み締めるようにランスが語りはじめた。
「ずっと……ずっと昔から……お前のことを本当の兄だと思ってきたんだ」
シドの胸座を掴んだままの拳から微かに力が抜けはじめていく。
「幼い頃から一緒にいるお前なら分かる筈だ。エレーナも……俺にとっては……可愛い……本当に大切な妹だ」
「な、何だよ……今更。そんなこと……言われなくても分か……」
「いいから聞けよッ!」
「あ、ああ……」
再び力任せに胸座を掴み上げられてしまい、シドはそのまま思わず口をつぐんだ。
「俺は、ずっと昔から本当のお前を見てきたんだ。曲がったことが大嫌いな……馬鹿正直な奴で、仲間を思う気持ちは誰にも負けない。剣の腕は俺には及ばないが、馬術の腕は右に出るものは居ない。まぁ、俺と同じで学問は苦手だけど……悪戯の才能は天才的だった」
ずっと一緒に過ごしてきた思い出を振り返るように、ランスが小さく口元を綻ばせた。
「だが……誰よりもエレーナを愛している男だ」
ランスの蒼い瞳がゆらゆらと揺れる。
「そんなお前になら……エレーナを任せられると思った」
「ランス……」
シドは小さく呟くと、その蒼い宝石のような瞳を見つめ返した。
シドにはランスの気持ちが痛いほど分かっていたのだ。
【To be continued】
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