麗しの小悪魔 第1話:謎の転校生《4》
そのオロオロした中年男の様子に、周りの乗客たちも徐々に異変に気づきはじめた。
「何だ?」
「何かしら?」
「痴漢だってよ」
「うわっ! ヤダぁ」
こんな狭い電車の中の上に、好奇心を擽る話題である。
広まってしまったら、もう止まるところを知らないのも無理はない。
その痴漢の情報は、電光石火の如く全車両へと駆け巡っていった。
「あ……あの……?」
当の瑞希は、何が起こったのか分からずにただキョトンとしたまま乗車ドアの近くに立ち竦んでいた。
そして、目の前にいるそのいきなり現われた長身の青年の顔をまじまじと見上げた。
ちょっぴり日に焼けた小麦色の健康そうな肌と、茶褐色の髪と同じ色の涼しげな目元。
同性の瑞希でさえ、「カッコいい」と思ってしまうくらいの風貌である。
――…僕のこと……助けてくれた…の……?
なぜか急に胸が熱くなってきて、ドキドキと鼓動が早くなってきた。
――…わ……っ!? な、何これ……ドキドキが…止まんないよ……っ!?
やがて、その痴漢中年男も諦めたように肩を落として大人しくなった。
「……ったくぅ……痴漢なんて冗談じゃないって感じーっ!」
ちょうど瑞希の隣にいた、およそ痴漢とは無縁な巨漢OLのお姉さんがそう撒くし立てた。
すると、助けてくれたその青年がとんでもないことを言い出したのだ。
「ホントホント、こんな公衆の面前でお姉さんを狙うなんて……社会人の風上にもおけないっすよね」
「えっ!? ア、アタシっ!?」
――…へ……ッ!?
これにはそのお姉さんも驚いたが、瑞希もまた驚いてしまった。
痴漢の被害に逢っていたのは瑞希のほうだったからである。
「ああ……このオッサンの……この右手がお姉さんのスカートの中に入っていったから、俺……思わず捕まえちゃったんすけど……?」
「な、何ですって――ッ!? ちょっとアンタッ!」
「ひ――ッ!?」
巨漢OLのお姉さんが、もの凄い剣幕でその痴漢中年男の胸座を思いっきり掴み上げた。
「ちょっとオジサン、アタシのお尻……狙ってたのッ!?」
「ひ――ッ!? ちっ、ち、違いますッ……違いますッ! ご、誤解なんだ――ッ!」
真っ青になって涙まで流しているその中年男は、無我夢中で誤解だということを訴えていた。
すると、隣の車両から数人の乗客に混じって駅員がこちらに乗り込んできた。
「ちょっと失礼します。痴漢を捕まえたっていうのはこちらの車両ですか?」
遂に駅員が事実確認にやってきたのだ。
これだけの大きな騒ぎになってしまっているのだから、おそらく乗客の誰かが呼んだのだろう。
「あっ、駅員さん! こっちこっちッ! この人がアタシのこと痴漢しようとしてたオジサンよッ!」
「だ、だから違うって――ッ!」
もういくら弁解しても、その場に居合わせた殆どの人達は、このお姉さんが被害者だと思っていることだろう。
「お、お客さん……本当にこの人に……痴漢しようとしたんですか?」
「だ、だから違うんですよ駅員さんッ! ぼ、僕が痴漢しようとしたのは……この人じゃなくて……ッ!」
「何胃ってんのよ、オジサンッ! そんなこと胃って誤魔化そうとしたってそうはいかないわよッ!」
「ま、まぁまぁ……じゃ、詳しいことは事務所のほうで……」
すべての経緯を呆然と見守っていた瑞希は、ちょっぴりその中年男が可哀相になってしまった。
どうしよう。
あのオジサンが触っていたのは、あのお姉さんのじゃなくてこの僕のお尻だった、ということをみんなに話してあげたほうがいいのだろうか。
「あ……あの……」
ちょうどその時、次の駅に到着したようで、アナウンスとともに乗車ドアが開いた。
その途端、車両から降りる人混みに紛れるように、誰かが瑞希の手首を掴んでホームへと引っ張った。
「……こっちだ」
――…え…っ!?
ふわり、と身体が浮いたように軽くなり、誰かの手に引かれて車両から外に出た。
そのまま駅のホームに降り立った瑞希は、再び走り出した電車を振り返るとただ呆然と見送ったのだった。
【To be continued】
「何だ?」
「何かしら?」
「痴漢だってよ」
「うわっ! ヤダぁ」
こんな狭い電車の中の上に、好奇心を擽る話題である。
広まってしまったら、もう止まるところを知らないのも無理はない。
その痴漢の情報は、電光石火の如く全車両へと駆け巡っていった。
「あ……あの……?」
当の瑞希は、何が起こったのか分からずにただキョトンとしたまま乗車ドアの近くに立ち竦んでいた。
そして、目の前にいるそのいきなり現われた長身の青年の顔をまじまじと見上げた。
ちょっぴり日に焼けた小麦色の健康そうな肌と、茶褐色の髪と同じ色の涼しげな目元。
同性の瑞希でさえ、「カッコいい」と思ってしまうくらいの風貌である。
――…僕のこと……助けてくれた…の……?
なぜか急に胸が熱くなってきて、ドキドキと鼓動が早くなってきた。
――…わ……っ!? な、何これ……ドキドキが…止まんないよ……っ!?
やがて、その痴漢中年男も諦めたように肩を落として大人しくなった。
「……ったくぅ……痴漢なんて冗談じゃないって感じーっ!」
ちょうど瑞希の隣にいた、およそ痴漢とは無縁な巨漢OLのお姉さんがそう撒くし立てた。
すると、助けてくれたその青年がとんでもないことを言い出したのだ。
「ホントホント、こんな公衆の面前でお姉さんを狙うなんて……社会人の風上にもおけないっすよね」
「えっ!? ア、アタシっ!?」
――…へ……ッ!?
これにはそのお姉さんも驚いたが、瑞希もまた驚いてしまった。
痴漢の被害に逢っていたのは瑞希のほうだったからである。
「ああ……このオッサンの……この右手がお姉さんのスカートの中に入っていったから、俺……思わず捕まえちゃったんすけど……?」
「な、何ですって――ッ!? ちょっとアンタッ!」
「ひ――ッ!?」
巨漢OLのお姉さんが、もの凄い剣幕でその痴漢中年男の胸座を思いっきり掴み上げた。
「ちょっとオジサン、アタシのお尻……狙ってたのッ!?」
「ひ――ッ!? ちっ、ち、違いますッ……違いますッ! ご、誤解なんだ――ッ!」
真っ青になって涙まで流しているその中年男は、無我夢中で誤解だということを訴えていた。
すると、隣の車両から数人の乗客に混じって駅員がこちらに乗り込んできた。
「ちょっと失礼します。痴漢を捕まえたっていうのはこちらの車両ですか?」
遂に駅員が事実確認にやってきたのだ。
これだけの大きな騒ぎになってしまっているのだから、おそらく乗客の誰かが呼んだのだろう。
「あっ、駅員さん! こっちこっちッ! この人がアタシのこと痴漢しようとしてたオジサンよッ!」
「だ、だから違うって――ッ!」
もういくら弁解しても、その場に居合わせた殆どの人達は、このお姉さんが被害者だと思っていることだろう。
「お、お客さん……本当にこの人に……痴漢しようとしたんですか?」
「だ、だから違うんですよ駅員さんッ! ぼ、僕が痴漢しようとしたのは……この人じゃなくて……ッ!」
「何胃ってんのよ、オジサンッ! そんなこと胃って誤魔化そうとしたってそうはいかないわよッ!」
「ま、まぁまぁ……じゃ、詳しいことは事務所のほうで……」
すべての経緯を呆然と見守っていた瑞希は、ちょっぴりその中年男が可哀相になってしまった。
どうしよう。
あのオジサンが触っていたのは、あのお姉さんのじゃなくてこの僕のお尻だった、ということをみんなに話してあげたほうがいいのだろうか。
「あ……あの……」
ちょうどその時、次の駅に到着したようで、アナウンスとともに乗車ドアが開いた。
その途端、車両から降りる人混みに紛れるように、誰かが瑞希の手首を掴んでホームへと引っ張った。
「……こっちだ」
――…え…っ!?
ふわり、と身体が浮いたように軽くなり、誰かの手に引かれて車両から外に出た。
そのまま駅のホームに降り立った瑞希は、再び走り出した電車を振り返るとただ呆然と見送ったのだった。
【To be continued】
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■SHINOBI―忍―














