君の瞳を逮捕するっ《25》

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「……便利…屋さん?」
「そう。依頼を受ければ何でもやります! 探しものから調べもの、引越し夜逃げ縁切り結び、痴漢撃退ボディーガード、留守番からベビーシッターまで何でもやります! ご用命は萬屋事務所『ラブ&ピース』までっ!」
そう言いながらピースサインを指で表した。
「はぁ……あ、あのっ……な、何かあった時は……お願いしま…す……」
「よーしっ! オーケイ、オーケイ任せてくれよ」
依頼料はグーンとオマケしちゃうからさっ、と玲司がご機嫌で翼の肩に腕をまわした。
「よせよせ、翼くん。そんな怪しげな奴に頼んだって何も解決しないのが関の山だぞ」
早瀬がそう言いながら笑った。
「なっに――ッ! 言ってくれるじゃんか、おいッ」
「何だよ? 本当のことだろーがっ」
「何だとぉッ!」
その時、鼻を突きつけ合った二人の間に、瞬が勢い良くサッとメニューを滑り込ませた。
「はいっ、そこまでっ! ほらほら、こんなお馬鹿はほっといて、早く席に着いて下さいねっ」
そう言いながら、早瀬と翼を窓際のボックス席に座らせると、瞬はレモンの輪切りが入ったお冷やグラスとおしぼりをテーブルに置いた。
「何を作りましょうか?」
「うーん、そうだな……ほら、翼くん。遠慮しなくていいから……何が食べたい?」
「あ……は、はい……えっと……あ、あの……」
メニューを開いて向かいの席からにっこりと微笑んだ早瀬にそう訊ねられ、翼は高鳴っていく鼓動につられたように赤くなってしまった。
緊張のあまり、目の前に開かれている筈のメニューが良く見えない。
「おいおい、そりゃ決まってんじゃんっ! ほら、翼ちゃん……これ、これっ! 松阪牛のサーロインステーキ・ミディアムなんて……どぉ?」
そう言いながら、横から玲司がメニューを指差した。
「えっ!? あ、あの……」
「おいっ、玲司ッ! お前には聞いてないっつーのっ!」
「おいおい、そんな固いこと言わないでさぁ……ほら、みんなで翼ちゃんとの初対面パーティーでもパーッとやろうぜっ」
「はあぁ?」
命を狙われているかもしれない人間がいる状況だというのに、呑気にパーティーどころではない。
こんな恐ろしい事実を知らない人間はお気楽で幸せだ。
「……ったく、お前って本当に脳天気な奴だよ」
「何だよそれ? 俺はただ……」
玲司がそう言い掛けた時、翼がメニューから顔を上げた。
「あ……あの……」
「ん?」
「あ、あのっ……オムライス……お願い…出来ますか?」
「へ?」
「オ、オムライスぅ!?」
想像もしていなかったその展開に、思わず一同が声を上げてしまった。
「オ、オムライスって……あのケチャップご飯を卵焼きで包んだやつか?」
「遠慮なんかすることないんだぞ、翼くん?」
「あ……い、いえ……遠慮とかじゃなくて……」
林檎のように真っ赤になってしまった翼が、はにかんだように微笑んだ。
「あ、あの……昔…母さんがよく作ってくれたの……思い出したんです」
「お母さんが……?」
はい、と頷いた翼が穏やかに過去の思い出を振り返った。
「小さい頃から、僕……母さんが作ってくれたオムライスが大好きだったんです。だから……母さん……仕事から帰ってきて……よく作ってくれました……」
幸せに包まれていた翼の幼少時代が目に浮かぶようだった。
しかし、もっと幸せになれる筈だった母の再婚が原因で、この母子は何かに怯え苦しむようになってしまったのだろう。
まったく、人生というものはどんなふうに転がっていくものなのか、誰にも分かりはしないものである。
「そっかぁ、オフクロの味ってやつ?」
玲司が羨ましそうにそう呟いた。
「す、すみません……無理なことお願いしちゃって……」
【To be continued】
君の瞳を逮捕するっ《24》

♪OPイメージテーマ曲を聴く
この辺りでは、知る人ぞ知る穴場スポットでもあるのだ。
「まぁ、マスターはムッツリしてて無口なオッサンだけど、従業員っていうか……店を手伝ってる奴らが……変な奴らなんだけどさ、これが料理の腕だけは最高なんだぜ。俺が保証するよ」
「で、でも……」
「いいんだよ。どうせこれから帰ったって晩飯の準備するようだろ?」
「そ、それは……そうですけど……」
「よしっ、じゃあ決まりだ。さぁ、入った入った」
「あ……」
早瀬は翼の手をぐいぐいと引いたまま、そのアンティークな木製のドアを開けた。
「いらっしゃいませっ!」
ドアの上部につけられた呼鈴が「チリン」と鳴ったのと同時に、カウンターのスツールに腰を下ろして漫画雑誌を読んでいた青年が振り返った。
「あっれーっ!? 敏じゃんかよっ」
その声につられたように、カウンターの中にいた綺麗な青年も顔を上げた。
「いらっしゃい、敏也さん。珍しいですね、こんな早い時間に……」
パステルカラーのシンプルなエプロンをしたこのふたりの青年が、驚いたように早瀬たちを出迎えたのである。
「ああ、今日はちょっとな……それより、瞬ちゃん。腹ペコなんだ、何か食わせて貰える?」
「はい、何をお作りしましょ……って、その後ろにいるお客さん……敏也さんのお連れさま?」
「え?」
お店の中を物珍しそうにキョロキョロと見回している翼に、ふたりの視線が集中する。
「え…っ!? あ…あのっ……ぼ、僕っ……こ、こんにちは……」
翼が慌ててペコリと頭を下げた。
「おーッ! スッゲー可愛い子じゃんッ! ねぇねぇ君の名前は? どこに住んでるのかなぁ? 俺はレイジ、高槻玲司っていうんだ。よかったら君のケータイ番号かアドレスを……ぐぁッ!」
いきなり後ろからエプロンを強く引っ張られて、胸当てが玲司の首を思いっきり締めた。
「もぉ、いい加減にしてよね」
「あはははっ、じ、冗談だって冗談ッ! あらららー、瞬ちゃんってば顔恐いよぉっ」
どうやらこのふたりの間で手綱を握っているのは、さっきまでカウンターの中にいたこの瞬という小柄で柔らかい雰囲気の青年らしい。
「……ったく。相変わらずだなぁ、二人とも」
そう呟きながら、早瀬がやれやれと肩を竦めた。
「翼くん、このふたりがさっき話した……ここの従業員みたいな奴らだ。さっき、カウンターの中にいたこのキレイなお兄さんが高槻瞬(たかつき・しゅん)くん」
「初めまして、どうぞ宜しくね……えーっと……ツバサくん?」
早瀬に紹介された瞬がにっこりと優しく微笑んだ。
「えッ!? あ……は、はいっ……翼……霧原翼ですっ……こ、こちらこそ…宜しく……お願いします……」
さっき早瀬が1回呼んだだけなのに、まさか名前を覚えて呼んでくれるとは思っていなかった翼は、驚いたように慌てながら再びペコリと頭を下げた。
「えーっと、それから……こっちの見るからにペテン師としか思えない奴が、高槻玲司(たかつき・れいじ)。瞬くんの兄貴だ」
次に早瀬が紹介したのは、さっきの玲司という些か調子のよさそうな青年だ。
「えっ!? お……お兄さん……だったんですか?」
「うん。さっきはごめんね、初対面でびっくりしたでしょ? うちの兄貴のビョーキみたいなものだから気にしないでね」
「は、はぁ……」
兄弟と聞かされて改めて見てみると、二人はまるで両極端な性格や性質を持っているようで殆ど似ていない兄弟だった。
弟の瞬が『静』なら、兄の玲司は『動』という雰囲気かもしれない。
「おいおいっ! 何だよお前らなぁ……そんなこと言ったら翼ちゃんが不審に思っちゃうだろーがっ」
この良識を絵に描いたような男に向かって何言ってんだよ、と玲司が口を尖らせた。
「はいはい……」
またはじまったよ、と呆れ顔の瞬が慣れた調子で相槌を打った。
「……っていうわけで、宜しくなっ! 翼ちゃん」
玲司は翼の手を取ると、勢い良くブンブンと振り回すように握手をしながら片目を瞑った。
「俺たちはここの2階で便利屋みたいなことやってるからさ。困ったことがあったら何でも相談してくれよ」
「……便利…屋さん?」
「そう。依頼を受ければ何でもやります! 探しものから調べもの、引越し夜逃げ縁切り結び、痴漢撃退ボディーガード、留守番からベビーシッターまで何でもやります! ご用命は萬屋事務所『ラブ&ピース』までっ!」
そう言いながらピースサインを指で表した。
【To be continued】
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