麗しの小悪魔 第1話:謎の転校生《3》
しかし―――。
「うわあぁッ! な、何これッ!」
悲鳴を上げたのも束の間、瑞希は通勤通学の人波に呑まれるようにして、改札口から電車の中まで流されてしまった。
「た、助けてッ! ファーラ――ッ!」
「ふにゃあぁ――ッ! み、瑞希さま――ッ!」
瑞希の肩に乗っていたファーラもまた、サラリーマンの人波に呑まれるように姿が見えなくなっていく。
「わあぁッ! ち、ちょっとぉ…ッ!」
ファーラの消えた方向に慌てて手を延ばしたが、もう届く筈もない。
そのまま車両内を勢いで流され続けた瑞希は、ドア付近に押しやられてようやく落ち着いた。
「……はぁ…はぁ、し、死ぬかと思った……」
人間達は毎日毎朝こんなことをやってるのだろうか。
僕にはとっても出来そうにないよ、と溜息を吐く。
「あ、あれっ? 待てよ。確かエノルが……学校へは毎日電車に乗って通う……って言ってなかったっけ? も、もしかして……僕も毎日コレに乗るのぉ!?」
エノルの言っていたことを思い出して、驚きの事実にガックリと肩を落としていると、車内アナウンスが流れて電車が動き出した。
「あっ! そ、それよりファーラはどこ行っちゃったんだろ?」
辺りをキョロキョロと探してみたが、人垣で何も見えない。
道案内役のファーラが居なければ、どうやって学校に行ったらいいかも判らない瑞希である。
「も、もぉッ……僕はどうすればいいのぉっ。困っちゃったなぁ………んっ?」
突然、瑞希は自分の身体の異変に気がついた。
「え…ッ!?」
大きな骨張った手が、ピタリと瑞希のお尻に密着して撫で廻している。
「な、何これっ!?」
やがて、その手は徐々に前のほうへと伸びてきて、制服のズボンの上から股間を探りはじめた。
「わ…ッ! わ、わ、わ――ッ!」
何が起こっているのか判らなくて、瑞希は驚きのあまり硬直したまま竦み上がってしまった
――…ひゃーッ! なッ、な、何これぇぇッ!
思わず身体をくの字に折り曲げて、瑞希は心の中で大きく叫んでいた。
もしかして、電車に乗る時はこうやって乗るのが人間界の常識なのだろうか。
しかし、どう考えてもこれはあまりにも変だ。
「ふっふっふっ……き、君…可愛いねぇ」
「ひ――ッ!?」
突然、後ろから身体をピタリと密着させてきたサラリーマン風の中年男が、興奮したような声で耳元に話し掛けてきた。
「これからおじさんとイイところに行かないかい?」
「あ…あ…はは…ッ…」
「おじさんさぁ……君みたいな可愛い男の子が好きなんだよねぇー」
――…ひゃーッ! やめてえぇぇ―ッ!
すっぽりとその中年男に抱きかかえられるような体勢になってしまい、瑞希は恐怖のあまり身体が竦んで思ったように動けなくなってしまった。
その中年男は、更に身体を密着させるように下半身をすり寄せてきた。
「ねぇねぇ、次の駅で降りて……ふたりっきりになれるところに行こうよ? おじさん、もう我慢できないよ……」
――…ぎゃああぁ――ッ! 寄るなッ、触るな――ッ!
魔法さえ使えれば、こんな男など引き蛙にでも変えてやるのに。
しかし、周りはずらりとたくさんの人間ばかりで、絶対に魔法は使えそうにない。
――…ファーラッ、エノルーッ、助けて―――ッ!!
自分がこれからどうなるのか、恐ろしさと心細さを感じて、瑞希の大きな瞳には大粒の涙が溢れ出した。
――…助けて――ッ!
瑞希が心の中で祈るように、ぎゅっと瞳を瞑ったその時…――。
「……おい、そこのオッサン。いつまでそうやってるつもりなんだ?」
不意に後ろから、よく通る凛とした低い声が聞こえた。
――…え…っ!?
恐る恐る振り返ると、長身の青年が瑞希にくっついていた中年男の右手首を捻り伏せていた。
「こんな朝っぱらから何やってんだ、アンタ」
「いててえぇ……ッ!」
中年男は真っ青になって悲鳴を上げた。
「我慢できねぇんなら、そーいう店に行って抜いてこいや」
「す、すみませんっ……ほ、ほんの……出来心で……っ」
「それとも……俺が相手してやろうか?」
「ひゃ――ッ! ご、ごめんなさいッ……ごめんなさいッ!」
【To be continued】
「うわあぁッ! な、何これッ!」
悲鳴を上げたのも束の間、瑞希は通勤通学の人波に呑まれるようにして、改札口から電車の中まで流されてしまった。
「た、助けてッ! ファーラ――ッ!」
「ふにゃあぁ――ッ! み、瑞希さま――ッ!」
瑞希の肩に乗っていたファーラもまた、サラリーマンの人波に呑まれるように姿が見えなくなっていく。
「わあぁッ! ち、ちょっとぉ…ッ!」
ファーラの消えた方向に慌てて手を延ばしたが、もう届く筈もない。
そのまま車両内を勢いで流され続けた瑞希は、ドア付近に押しやられてようやく落ち着いた。
「……はぁ…はぁ、し、死ぬかと思った……」
人間達は毎日毎朝こんなことをやってるのだろうか。
僕にはとっても出来そうにないよ、と溜息を吐く。
「あ、あれっ? 待てよ。確かエノルが……学校へは毎日電車に乗って通う……って言ってなかったっけ? も、もしかして……僕も毎日コレに乗るのぉ!?」
エノルの言っていたことを思い出して、驚きの事実にガックリと肩を落としていると、車内アナウンスが流れて電車が動き出した。
「あっ! そ、それよりファーラはどこ行っちゃったんだろ?」
辺りをキョロキョロと探してみたが、人垣で何も見えない。
道案内役のファーラが居なければ、どうやって学校に行ったらいいかも判らない瑞希である。
「も、もぉッ……僕はどうすればいいのぉっ。困っちゃったなぁ………んっ?」
突然、瑞希は自分の身体の異変に気がついた。
「え…ッ!?」
大きな骨張った手が、ピタリと瑞希のお尻に密着して撫で廻している。
「な、何これっ!?」
やがて、その手は徐々に前のほうへと伸びてきて、制服のズボンの上から股間を探りはじめた。
「わ…ッ! わ、わ、わ――ッ!」
何が起こっているのか判らなくて、瑞希は驚きのあまり硬直したまま竦み上がってしまった
――…ひゃーッ! なッ、な、何これぇぇッ!
思わず身体をくの字に折り曲げて、瑞希は心の中で大きく叫んでいた。
もしかして、電車に乗る時はこうやって乗るのが人間界の常識なのだろうか。
しかし、どう考えてもこれはあまりにも変だ。
「ふっふっふっ……き、君…可愛いねぇ」
「ひ――ッ!?」
突然、後ろから身体をピタリと密着させてきたサラリーマン風の中年男が、興奮したような声で耳元に話し掛けてきた。
「これからおじさんとイイところに行かないかい?」
「あ…あ…はは…ッ…」
「おじさんさぁ……君みたいな可愛い男の子が好きなんだよねぇー」
――…ひゃーッ! やめてえぇぇ―ッ!
すっぽりとその中年男に抱きかかえられるような体勢になってしまい、瑞希は恐怖のあまり身体が竦んで思ったように動けなくなってしまった。
その中年男は、更に身体を密着させるように下半身をすり寄せてきた。
「ねぇねぇ、次の駅で降りて……ふたりっきりになれるところに行こうよ? おじさん、もう我慢できないよ……」
――…ぎゃああぁ――ッ! 寄るなッ、触るな――ッ!
魔法さえ使えれば、こんな男など引き蛙にでも変えてやるのに。
しかし、周りはずらりとたくさんの人間ばかりで、絶対に魔法は使えそうにない。
――…ファーラッ、エノルーッ、助けて―――ッ!!
自分がこれからどうなるのか、恐ろしさと心細さを感じて、瑞希の大きな瞳には大粒の涙が溢れ出した。
――…助けて――ッ!
瑞希が心の中で祈るように、ぎゅっと瞳を瞑ったその時…――。
「……おい、そこのオッサン。いつまでそうやってるつもりなんだ?」
不意に後ろから、よく通る凛とした低い声が聞こえた。
――…え…っ!?
恐る恐る振り返ると、長身の青年が瑞希にくっついていた中年男の右手首を捻り伏せていた。
「こんな朝っぱらから何やってんだ、アンタ」
「いててえぇ……ッ!」
中年男は真っ青になって悲鳴を上げた。
「我慢できねぇんなら、そーいう店に行って抜いてこいや」
「す、すみませんっ……ほ、ほんの……出来心で……っ」
「それとも……俺が相手してやろうか?」
「ひゃ――ッ! ご、ごめんなさいッ……ごめんなさいッ!」
【To be continued】
麗しの小悪魔 第1話:謎の転校生《2》
「ファーラは魔力の他にも特殊な能力をいくつか持っていますから、瑞希さまの護衛くらいは任せられるでしょう」
「へぇー、特殊な能力かぁ……凄いね、ファーラ」
瑞希は大きな瞳を輝かせて、フワフワのファーラを抱き上げた。
こんなに小さくて可愛らしい子猫に護衛なんてできるのだろうか、と疑問に思うけど。
「それから、周囲には私と瑞希さまは従兄弟同士で、アメリカから帰国した、ということにしてありますので、お忘れなく」
「うんっ。従兄弟同士かぁ……って、僕の従者だって言っちゃ駄目なの?」
「当たり前ですっ! それがバレないようにするんですからっ!」
エノルの剣幕に思わず瑞希は後退った。
「わっ、わかったよぉ……もぉ」
そんなに怒鳴んなくてもいいじゃん、と瑞希が口を尖らせる。
「あ、あのにゃ、瑞希さま。お取り込み中だけど、もぉ家を出ないと学校に間に合わないにゃ」
「え?」
困惑した顔のファーラにそう言われ、慌てて壁掛時計を振り返ると、既に家を出る時間を過ぎていた。
「えぇ──ッ! ヤ、ヤバッ! じ、じゃ、行ってくるねっ、エノルっ」
椅子に掛けてあったカバンを肩に掛け、そのまま慌てて走り出す。
「瑞希さまっ、魔法は絶対に禁止だと言うことをくれぐれも忘れないで下さいっ」
「はいはいっ、判ってるよぉーッ! 行ってきまーすっ!」
ブンブンと手を振る瑞希の後をファーラが慌てて追いかける。
「ファーラ、瑞希さまを頼みましたよ」
「はいにゃ、エノルさまっ」
騒々しく走り去っていくその姿を見送ったエノルは、ふっと小さく溜息を吐いた。
「……やれやれ、こんなんでこの先本当に大丈夫なんだろうか?」
初めて人間界にやってきた瑞希さま…―――。
『魔界の後継者』としてこれから此処で成し獲なければならないことを理解しているのだろうか。
そして、必ず現れるであろう『闇の存在』である彼等のことも…―――。
こうして居る間にも、彼等は既に瑞希さまを探して人間界に来ている筈だ。
何としても、瑞希さまを奪われることだけは阻止しなくてはならない。
「……油断はしていられない、ということか……」
そう呟くと、エノルは凛とした蒼い瞳で窓越しに外の眩しい青空を見上げた。
◇◇◇
「……ったく、エノルったらさぁ……人間界に来た途端、魔界にいる時よりも厳しくなったみたいなんだけどなぁ」
ブツブツと独り言を呟きながら、瑞希は駅に向かって走っていた。
「それは仕方ないにゃ。人間界は魔界と違って色々と危険も多いしにゃ……それに、エノル様だって瑞希さまのことが心配だから厳しくするんじゃないかにゃ」
ファーラが瑞希の横に並び、宙を駆け走りながら言った。
「わあぁッ! フ、ファーラッ! ど、どこ走ってんのッ!?」
エノルに魔法を使うことは禁止されているのに、これじゃ明らかに違反である。
まして、こんなところを人間に見られたりしたら大変なことになるだろう。
「ああ、心配ないにゃ、瑞希さま。これは魔法じゃなくて精霊の特殊な力だにゃ。それに、我々精霊の姿は人間には全然見えないにゃ」
「えっ!? そ、そうなんだ……」
「まぁ、中には稀に見える能力を持っている人間もいるけどにゃ」
「ふぅーん」
改めて精霊の不思議な力を知った瑞希である。
「あっ! 駅だにゃ、瑞希さまっ。あそこから電車に乗るにゃ」
「よ、よしっ! 行くよっ、ファーラッ!」
「はいにゃっ!」
初めての電車に緊張しながらも、瑞希は朝のラッシュアワーの中に駆け込んでいった。
【To be continued】
「へぇー、特殊な能力かぁ……凄いね、ファーラ」
瑞希は大きな瞳を輝かせて、フワフワのファーラを抱き上げた。
こんなに小さくて可愛らしい子猫に護衛なんてできるのだろうか、と疑問に思うけど。
「それから、周囲には私と瑞希さまは従兄弟同士で、アメリカから帰国した、ということにしてありますので、お忘れなく」
「うんっ。従兄弟同士かぁ……って、僕の従者だって言っちゃ駄目なの?」
「当たり前ですっ! それがバレないようにするんですからっ!」
エノルの剣幕に思わず瑞希は後退った。
「わっ、わかったよぉ……もぉ」
そんなに怒鳴んなくてもいいじゃん、と瑞希が口を尖らせる。
「あ、あのにゃ、瑞希さま。お取り込み中だけど、もぉ家を出ないと学校に間に合わないにゃ」
「え?」
困惑した顔のファーラにそう言われ、慌てて壁掛時計を振り返ると、既に家を出る時間を過ぎていた。
「えぇ──ッ! ヤ、ヤバッ! じ、じゃ、行ってくるねっ、エノルっ」
椅子に掛けてあったカバンを肩に掛け、そのまま慌てて走り出す。
「瑞希さまっ、魔法は絶対に禁止だと言うことをくれぐれも忘れないで下さいっ」
「はいはいっ、判ってるよぉーッ! 行ってきまーすっ!」
ブンブンと手を振る瑞希の後をファーラが慌てて追いかける。
「ファーラ、瑞希さまを頼みましたよ」
「はいにゃ、エノルさまっ」
騒々しく走り去っていくその姿を見送ったエノルは、ふっと小さく溜息を吐いた。
「……やれやれ、こんなんでこの先本当に大丈夫なんだろうか?」
初めて人間界にやってきた瑞希さま…―――。
『魔界の後継者』としてこれから此処で成し獲なければならないことを理解しているのだろうか。
そして、必ず現れるであろう『闇の存在』である彼等のことも…―――。
こうして居る間にも、彼等は既に瑞希さまを探して人間界に来ている筈だ。
何としても、瑞希さまを奪われることだけは阻止しなくてはならない。
「……油断はしていられない、ということか……」
そう呟くと、エノルは凛とした蒼い瞳で窓越しに外の眩しい青空を見上げた。
◇◇◇
「……ったく、エノルったらさぁ……人間界に来た途端、魔界にいる時よりも厳しくなったみたいなんだけどなぁ」
ブツブツと独り言を呟きながら、瑞希は駅に向かって走っていた。
「それは仕方ないにゃ。人間界は魔界と違って色々と危険も多いしにゃ……それに、エノル様だって瑞希さまのことが心配だから厳しくするんじゃないかにゃ」
ファーラが瑞希の横に並び、宙を駆け走りながら言った。
「わあぁッ! フ、ファーラッ! ど、どこ走ってんのッ!?」
エノルに魔法を使うことは禁止されているのに、これじゃ明らかに違反である。
まして、こんなところを人間に見られたりしたら大変なことになるだろう。
「ああ、心配ないにゃ、瑞希さま。これは魔法じゃなくて精霊の特殊な力だにゃ。それに、我々精霊の姿は人間には全然見えないにゃ」
「えっ!? そ、そうなんだ……」
「まぁ、中には稀に見える能力を持っている人間もいるけどにゃ」
「ふぅーん」
改めて精霊の不思議な力を知った瑞希である。
「あっ! 駅だにゃ、瑞希さまっ。あそこから電車に乗るにゃ」
「よ、よしっ! 行くよっ、ファーラッ!」
「はいにゃっ!」
初めての電車に緊張しながらも、瑞希は朝のラッシュアワーの中に駆け込んでいった。
【To be continued】
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