緋の覇王:第1章『戦焔の序章』《8》

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1、運命〜プロローグ〜
8
「まさか」
その冗談めいたシドの話を笑い飛ばすと、ランスは柔らかい草の上に仰向けに寝転んだ。
どこまでも続く青い空を白い雲がゆっくりと流れていく様子を見つめていると、同じこの空の下で戦いや争い、殺戮が繰り返されているなんて想像も出来ない。
ガルディスの村は、いつも平穏さに包まれていて争いはなかった。
父や母、エレーナやシドやティムース爺。
そして、たくさんの村の人々や大切な仲間達。
この平安がいつまでも続いてくれればいい、と思った。
このままずっと…――。
「……なぁ、シド?」
「ん? 何だよ?」
不意にランスが声を掛けたので、シドは不思議そうにその親友の顔を覗き込んだ。
「お前、エレーナのこと好きなんだろ?」
「えぇッ!? なっ、何だよっ、いきなり……ッ!?」
顔色ひとつ変えずにそう訊ねるランスに、シドは耳朶まで真っ赤になりながら慌てふためいた。
「おいおい、何だよ? 今更そんなに驚くことないだろ?」
「で、でもなぁ……」
「俺たち、もう何年一緒にいると思ってるんだ? お前の顔色見ただけで分かるよ」
「あは、は……」
シドは、茹で蛸のように真っ赤になったまま、恥ずかしそうに頭を掻いた。
幼い頃から二人のことをすぐ傍で見てきたランスには、シドの気持ちはずっと前から分かっていたのである。
実のところは、シドと二人だけでこのアモルワの湖に来たのも、エレーナを想うシドの心中を聞き出そうと思ったからだった。
「――…で、どうなんだよ?」
「あ、ああ……その……」
やがて、シドは観念したように静かに想いを語りはじめた。
「お前の言う通りだよ。俺は、エレーナのことが……好きだ」
ゆらゆらと輝くシドの茶褐色の双眸には、エレーナを想う強い意志が感じられた。
「幼い頃に家族も何もかも失ってしまった俺にとって、エレーナの笑顔は太陽……生きる希望だったんだ。あの明るい笑顔や優しさが、温かくて……眩しくて……いとおしくて……。だから、俺はこのかけがえのない大切なひとを……この身に代えても守りたいんだ」
そう言いながら、強く拳を握り締めたシドがいつもよりも逞しく感じる。
「多分、俺はエレーナのことを……好きというよりは……愛しているんだと思う」
真摯にエレーナを大切に思うシドの気持ちが、兄としてエレーナを大切に思うランスの心に共鳴した。
いきなり起き上がると、ランスはシドの胸座を掴んだ。
「それじゃ、何でそこまで気持ちが固まっているのに、エレーナに想いを打ち明けてやろうとしないんだッ!?」
【To be continued】
…………………………
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緋の覇王:第1章『戦焔の序章』《7》

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1、運命〜プロローグ〜
7
「……ったく、こんなことして……もしティムース様にでも知れたら俺が責められるんだぞ。お前、判ってんのかッ?」
そう言いながら、シドは呆れたように肩を竦めながら深い溜息を吐いた。
しかし、そんな親友の心配をよそに、ランスは湖畔に馬の手綱を繋いで休ませると、悪戯っぽい笑みを浮かべながらアモルワの湖から吹いてくる優しい風に揺れる草の上に腰を下ろした。
「お爺なら、きっとこう言うだろうな。『こりゃっ、お前たちッ! 何度言ってもわからんのじゃったら、樫の木に吊り下げてドラゴンの餌にしてしまうぞッ!』……だろ?」
ランスが得意気にティムースの口真似をしたので、シドもつられたように声を上げて笑った。
「おいおい、巧いもんだな。今頃さすがのティムース様もクシャミでもしてるんじゃないのか?」
「ああ、そうだな。ちっちゃい頃からお前と一緒に悪さをしてよく叱られたっけ」
二人は、幼い頃に遊んだアティームの森でのことや、たくさんの悪戯をしてはティムースに追い掛け回されて叱られたことを思い出していた。
――…結局、アモルワの湖に先に到着したのはランスだった。
幼い頃から兄弟のように育ってきた二人は、いつも傍らにいてお互いのことを理解し合っているような、言わば自分の分身のような存在だった。
シド=ブレームは、ガルディスの村で馬行商をしていた下級商人の家に生まれたが、シドが五歳の時に国境の焼き討ちの巻き添えになり、両親や兄弟たちもすべてが死んだ。
奇跡的に助かったシドを救ったのは、当時ガルディスの村領主になったばかりのエルハイドだった。
そして、エルハイドの家に引き取られたシドは、領主所有の馬の世話番人の使用人として仕えるようになったのである。
シドはそこで、村の者や家の者たちが地下楼に隠すようにして育てている、自分より二歳年下の見事な金髪と青い瞳を持った不思議な男の子に出会ったのだった。
好奇心旺盛なその悪戯小僧と仲良くなるのには殆ど時間は掛からなかった。
二人はまるで本当の兄弟のように、一緒に読み書きを学び、剣の稽古や食事をして一緒に眠っていた。
まるで、同じ夢を見ることが出来るかのように…――。
アモルワの湖の澄んだ水面を見つめながら、ランスは今朝のあのおぞましい夢の一部始終をシドに語って聞かせた。
「本当に不気味な夢だな、そりゃ……」
「そうだろ? 俺も何だか気になっちゃってさ」
「それにしても……朱染めの軍旗なんてこの辺じゃ見たことないよな」
「ああ……」
やはり、シドも知らないという。
「誰かが呼んでる……か? そりゃ、もしかしたら……ずーっと遠い西の果ての国かなんかの美しいお姫様が助けを求めてるのかもしれないぞ」
「まさか」
【To be continued】
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